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詰将棋作家の見た世界
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HN:
首猛夫
性別:
男性
職業:
怪しい金融業
趣味:
詰将棋創作 音楽演奏
自己紹介:
昭和31年9月、東京生まれ。
詰将棋作家集団「般若一族」の生き残り。
詰将棋創作以外に、作曲(約100曲くらい)音楽演奏(ベース)。
人間についても、自閉的観点からいろいろ考えている。
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★2008/04/08 (Tue)

夜逃げをした夫婦がいる。
わたくしの保険の仕事上の契約者の話で、個人情報なのである程度のことしかいえない。
この夫婦は、数年前運輸業の会社を興した。
最初は、小さな会社でどちらかと言うと、夫婦でトラックを運転していたことを延長した形だった。
ところが、大きな会社の下請け会社がうまくいかなくなってその会社を引き継ぐ形で急に大きくなった。

それまでは、経済的に苦しかったこの夫婦は、身を粉にして寸暇を惜しまず働き、三人の子供を団地に住みながら育てていた。

ところが、ここから彼らの人生に「転機」が訪れる。
会社を興し、うまいことに大きな会社を引き継ぎ、借金もそう多くはない普通の企業としては恵まれたスタートだった。
それからしばらくして、夫婦は団地を出て、家を買った。
中古のそう大きくはないが、それなりに家族五人が住める家だった。

ここにわたくしの一つの不安が脳裏をよぎった。
たいていの成功した企業家は、すぐに利益を放出しない。
様々事態に備えて、利益を上手に留保する。
もちろん税金に対しても合法的に、プロの意見を素直に聞いて自分でも研究して、企業を守る。
守るだけではだめなので、とうぜん攻めの手も考えるが、そこは慎重だ。

しばらくして、従業員が大幅に増え、夫婦は徹夜に近い形で働き、会社が大きくなるのを喜んでいた。
誰しも、薄給で窮々としていたところへ、その数倍の利益がもたらされれば、今まで我慢していたことを我慢できなくなる。

次に、大きな家を高級住宅街に購入した。
中古とはいえ、バブル期には2億円はしただろう物件だ。
その地域には、いわゆる「成功者」が住んでいて、夫婦はそのことを盛んに自慢した。
xxx産業の会長が住んでいる。
お隣さんは、xxx銀行の頭取だった人、・・・・。

自分たちもその成功者の仲間入りをしたと言いたかったのだろう。
考えても無理はない。
社会のどちらかと言うと低所得者層から、一気に階段を駆け上り、億の金を融資される側に回ったのだから。

わたくしが驚いたのが、犬だった。
大きなそれも一頭数十万円は下らないだろう、血統書つきの犬を三匹も購入したことだ。
大きな犬小屋は、庭に立っていたが、わたくしがその頃住んでいた家より広かった。

そうして、優雅な成功者としての毎日を送る一方で、この夫婦は一生懸命働いた。
低所得者層の頃の習慣で、実際の仕事に一生懸命だった。

しかし、大きな会社になって、そういうのは努力の方向が違っていた。
会社が大きくなれば、その会社の実務を直接管理運営するのには無理がある。
核となる人物を、主要なポストに配置して、そのものたちの人心を掌握するのが、何よりも肝要である。

従業員の遅刻や、服装態度の管理まで、こと細かくいちいち社長や専務が乗り出していたのではたまらない。
彼らは、大きな会社の運営のノウハウを知らなさ過ぎた。
大きなは物差しで計らなければならない相手に、今までの小さな定規で仕事をしたのだった。

雇い主の心理と言うのは、実に身勝手なものだ。
雇われていた頃には、自分の給料を始めとした待遇に文句ばかりつけていたくせに、
雇い主になったとたん、出てくる言葉は、

「親の気持ち、子知らず」

って言うわよね、全くいまどきの若い人たちは、給料が出るのを当たり前だと思っているのにね。

これにはわたくしも驚いた。
給料が出るのは当たり前だ。
そうして、従業員はあらゆる法律によって守られている。
雇い主側からの横暴な雇い方に対抗して、従業員を守るためだ。

少なくとも雇い主になるのなら、それらはまず勉強しなければダメだ。
雇い主として、要求していいこと、してはいけないこと。
従業員がしなければいけないことの範囲。
これについては異常なほど敏感だった。
そして鈍感なのが、雇い主としてやらなければならいこと。

驚くのは給料を払い、厚生年金をつけ、健康保険をつけることを、

「これだけやってあげてるのに・・・」

となにか上乗せしてあげている善意の雇用者のように振舞っていることだった。
これらは、当たり前すぎるほど当たり前のことで、これがあるからこそ、逆に従業員は長く安定して働ける。
そういう長く安定して働いてくれる従業員は、企業にとっては宝である。
宝物は天から降ってくるのではない。
雇用者側の努力で、育てていくのである。

あるときはともに悩み、あるときは一線を引いて、すべきことをして、やるべきことをやらせて、育てていくのである。

当たり前のことを、何かの上乗せのようにいうこの夫婦には、従業員に休暇を与えたり、給料の前借に応じたりすることは、

「親が子にするようなもの」

と自画自賛していた。

しかし、従業員の保険も扱っていたわたくしは、ここの従業員がこの雇い主である夫婦に、感謝していたり、ありがたいと思っていたり、はしてなかった。

なぜか?

それは簡単なことだが、この簡単なことが今の人類に出来ない。

それは彼ら夫婦が

「雇い主の心理」

から抜け出せないからである。
人間は立場でものを考えてしまう。
ある男の話だが、今までいっかいの従業員に過ぎなかったものが、雇われ社長になったとたん、従業員の遅刻が耐えられなくなったそうだ。
それまで平気で遅刻してきた彼は、遅刻がどんなにいらいらするものか、社長になって初めてわかった。
今までは、他人の家にお邪魔していたのが、自分の家になったとたん、汚れが気になるのと同じだろう。

それでは、ダメなのだ。

立場で考えるのではなく、そこには働いている

「働くのものの原理」

を考える、肌で感じることが必要なのだ。

ついさっきまで、このことを知っていたはずなのに・・・・・

哀れなこの夫婦は、従業員の心をつかめず、仕事が迷走し始め、つぶれかかった。
そのとき誰一人、彼らを助けなかった。
そうして、ある日、従業員全員に給料も払わずに、夜逃げした。


彼らが口にしていた、

「従業員手のは気楽でいいわよ、自分のことだけ考えてりゃいんだから」

を、逆にそのまま地で行って彼らは行方をくらました。

考え方一つ変えていれば、今頃は楽しい花見でもしていただろうに。

 

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